色と光のふしぎ -視覚混合- 美術と科学

絵や彫刻などの美術・芸術作品というものはどうやって作るのでしょう?
感性や才能によって作られるのでしょうか。正解でもありますが、実は作品が作られるいくつかの要素の一つには「科学」があります。


美術と科学についてはいつか書きたいと思っていたテーマです。

美術というと感性によるものだと思いがちですし、実際作品を作っている人の中にもそう思っている人もいるかもしれません。

でも、実際には感性的な部分だけでなく、技術が必要ですし、もう一つ必要なのは理論としての科学です。

とくに美術作品を作る上で大きく関わるのが、「色と光」です。
そもそも私たちはどうやって色や形を視覚的に認識しているのでしょう?


そもそも色とは?形とは?

まず形の認識というところでは、物体は光を発していません。
そのため、もし太陽などの光源がない場合には私たちは目で光をとらえることができないので、物体がそこにあるという認識はできません。

それ以前に空間の中に光がありませんから、全てが真っ暗で何も見ることができませんよね。

光源があり、物体に光が当たり反射が起こり、その反射光を目で見ることで私たちは何かの物体がそこにあるとわかります。

色の場合はどうでしょうか。
光というとまず思い浮かぶのは太陽の光、室内の灯りですね。
演出をしないかぎり、たいてい思い浮かべる光の色は「白」ではないでしょうか。

この白という色は、実は色々な色が混ざることによって白くなっています。
光をプリズムに通したり、雨上がりの空を見ると虹色がでることがありますが、あの虹色が光を屈折させて分解した色なのです。

人間の目の内部には光を認識する網膜があります。
ここには赤・緑・青を認識する細胞があり、これらがそれぞれの色の光を認識しています。

たとえば目の前に赤いリンゴがあるとしましょう。
これがなぜ赤いのかというと、赤い色素を持っている物体というのは、赤い光は反射させ、それ以外の光は吸収しています。

その反射された赤い光を見ることになるので、私たちは「そこに赤いリンゴがある」と認識するのです。

色と物体の認識


PCの色の歴史

唐突ですが、PCやスマホの画面が表示できる最大発色数っていくつかご存知ですか?

コストを下げるために約26万色に抑えているものもありますが、一般的には約1677万色です。すごく高性能なディスプレイですと約10億色まで表示できるものもあります。

いまはPCと呼ぶことが多くなっていますが、パーソナルコンピューターを「パソコン」と呼ぶようになったのは、日本ではNECのPC8001やPC9801シリーズが発売されたことの影響が大きいと思います。

これらが活躍していた頃の性能は、今のPCと比べると1/100以下かもしれません。

現在のPCやスマートフォン、タブレットでは、フルカラーの写真は普通に扱えますが、当時のPCでは非常に大変なことでした。

なによりPC98の場合、使える色数が最大4096色の中から16色までしか使えなかったので、写真には向いていなかったとしか言いようがありません。

でも、当時からPCで絵を描いていた人たちはいたのです。
その人達は少ない色数の中でどうやって絵を描いていたのでしょうか?

その答えが100年以上昔からあった美術の手法、視覚混合というものです。


視覚混合とは

視覚混合とは並置混色ともいい、ジョルジュ・スーラの点描画に代表されるような色の混合方法です。

下図をご覧下さい。これは何色に見ますか?
※あまり凝視すると疲れるのでさっと見るだけにしてください。

視覚混合1

白と赤が並んでいるだけにみえますよね?
ではもっとずーっと縮小してみたらどうでしょう?

視覚混合2

どうでしょうか?色が混ざってピンクに見えてきませんか?
(形がズルイかもしれませんが…(笑))

え?まだ赤と白が並んでいるように見える?

その場合ピクセル一つずつをそれぞれ認識できているためだと思いますので、近視の人はメガネを外して、それ以外の人は目を細めて見て下さい。

輪郭がぼやけると色が混ざり、ピンクに見えるようになります。

このように画面から飛び出した色の光が網膜上で混合され、たとえば赤と黄色が並んでいればオレンジ、赤と青が並んでいたら紫、と言った具合に感じています。

これが視覚混合の原理です。


加法混合と減法混合のおさらい

○○混合、という色の仕組みを表す言葉は他にもありましたよね?

以前の記事でillustratorでのRGBとCMYKモードについての説明をしたときに、
減法混合(混色)と加法混合(混色)について少し触れましたが、もう一度おさらいをしておきましょう。

RGBとCMYK

Red(赤)、Green(緑)、Blue(青)の略がRGB、「光の三原色」ですね。

白い色の光を分解すると概ねこの3色に別れます。
色を混ぜていくことでどんどん白に近づいていく、つまり明るくなっていくので、「加法混合(加法混色)と呼びます。

それに対し、Cian(シアン)、Magenda(マゼンダ)、Yellow(イエロー)は「色材の三原色」と呼ばれています。大雑把に言うとインクや絵の具の色なのですが、こちらは色を混ぜていくことで、濁っていく=暗くなっていきます。

言葉だけだと判りにくいかもしれませんね?
では全ての色の絵の具をパレットに出して混ぜてみてください…黒とも灰色ともいいにくい色ができあがりますね。

このように混ぜれば混ぜるほど暗くなっていく色の混ぜ方を「減法混合(減法混色)」と呼びます。

なぜ絵の具を混ぜるとこのような事が起こるのでしょうか?

ブログ「身近な科学・学びを遊びに Sciencekidoを運営されている、サイエンスコミュニケーターのきど様よりアドバイスを頂きました。ありがとうございます!
光は長波長から低波長の光が混ざり合い、黒く見えるのではなく、白い明るい光になって見えるのは私たちの色を認識する細胞(錐体細胞)が直接的に感じ取っているからです。

絵の具などの持つ色素は分子構造的に光の大部分を吸収し、一部のスペクトルの光だけを反射させているので色として認識されています。
つまり絵の具の場合はその色の光だけを反射させて色になっているといえます。

なので他の色素が混ざりあうと反射もするけれど、どんどん吸収する範囲が増え、その結果、最終的に黒色に近い色に見えてしまうということなのです。

「身近な科学・学びを遊びに」は、ふだん何気なく感じる素朴な疑問をわかりやすく科学的に説明してくれるとても良いブログです。

減法混合の詳細な解説もしていただけていますので、私の記事と合わせてぜひご一読下さい。


科学で描く画家スーラ

さて、視覚混合の話に戻りますと、スーラの絵は点で構成されています。

原色のまま点を置いていきますので、近くでみると赤・黄・青・緑…などの点が並んでいる絵にしか見えないのですが、画面全体が見えるくらいの距離まで離れると、それぞれバラバラだった色の光が鮮やかな色になってみえるはずです。

この原理は実は普段私たちが見ている印刷物や、TV・PC・スマホなどの画面でも利用されています。

スーラを含む印象派と呼ばれる人たちは光を表現しようと試みて来たと言われていますが、その中でもスーラはこういう光の性質あるいは網膜の性質を科学的に理解して絵を描いていたと思われます。

点描技法そのものは、印象派の他の画家たちも使っていましたが、あくまでも感覚的に行っていたのに対して、スーラは科学的に分析した色を使用していたと言われています。

また、絵の具を混ぜると黒くなるという減法混色のデメリットと、光は重なる色によっては白くなるという加法混色のメリットに気付き、網膜上で色を合成させるスーラ独自の点描画法=視覚混合に到達したのです。

スーラは1800年代末期の人ですが、この時代にこのことに気づいていたというのはすごいことだと思います。

下図はスーラの代表作、「グラント・ジャット島の日曜日の午後」です。主役の貴婦人の部分を右側に拡大してみましたので全体図と比較して御覧ください。

グランド・ジャット島の日曜日の午後
グランド・ジャット島の日曜日の午後 パブリックドメイン美術館より転載


まとめ:美術と科学は結びついている

スーラの絵や技法から学び取れるように、美術や芸術と科学は無関係なものではありません。

むしろ密接に結びついています。

私は今回の記事で、きどさんから科学的な裏付けを得た事で記事の説得力が増したと考えています。
美術・芸術作品を作る上で科学を学び理解することは、感覚だけで作るよりも説得力というさらなる深みを作ることができることになります。

科学という面でも、感覚から作るため一見科学から遠いと思われがちな美術・芸術作品から科学の痕跡を見ることができれば、相互にとってよりよい何かがうまれるのでは無いでしょうか。

美術家をめざす人も、科学者をめざす人も相互に学んでいきましょう。


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