SedgeDesign Reality-悪夢の環-

Reality-悪夢の環-

リアリティ-アイキャッチ

こん睡状態の悠斗を、自らも開発に関わった《夢を共有するシステム》ドリームキャッチャーを使用して救おうとするエリス。そこで見たものは何度も恐怖体験を繰り返す悠斗の姿だった。

この物語はフィクションです。劇中に登場する人物・名称・技術・解釈などはすべて架空のものです。また、実際に存在する地名・建築物などを使用しておりますが、実在のものとは一切関係はありません。

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悠斗のトラウマ

悠斗はこん睡状態に陥るとき、考えていたのはエリオットの事だった。

翌日の下見に一旦VRのイベントを見ておこうとしたが、そのアトラクションの一つに悠斗の苦手な高所《バードビュー》があったのがいけなかった。

悠斗はエリオットと出会って以来、親友と感じつつ可愛い弟分としても見ている。

一人っ子として育った悠斗は、弟がいたらこんな感じなのかもしれないと、いつもいろいろと頼ってくるエリオットの前では「頼れる兄貴」でありたいと思い、常にゲームではエリオットの上を行けるように励んでいた。

リアルの悠斗もまた、学力では天才であるエリオットに及ばないものの、一般的な高校生という意味ではトップレベルであるし、身体能力もかなり高く、いわばエリート高校生と言っても過言ではない。

そんな悠斗がエリオットに負けてしまう部分が、”高所”なのである。

高いところでも地面にしっかり足がついているような場所であれば問題はないのだが、視界の中に高低差を感じるものがあったり、飛行マウントなどに乗ることがどうしてもダメだったのだ。

悠斗の高所恐怖症は、幼児期に初めて飛行機旅行をした際、乗った飛行機が墜落しかけたという出来事に由来する。
本人はその事はおぼろげにしか覚えていないが、恐怖だけが深層心理に刻み付けられてしまっているのだ。

本当は女の子であるエリスにとっては、万能的な悠斗の唯一の欠点は彼女の母性本能をくすぐるチャームポイントなのだが、悠斗にとってはエリオットに対するプライドから、常について回るコンプレックスだった。

「よし、今度こそ高いところを克服して、エリオットに自慢するぞ」

悠斗としては、VR東京イベントであらかじめバードビューを予習して、慣れた状態でエリオットと一緒にバードビューをプレイし、動揺しない状態を見せたかったのだ。

「自慢する」などと言っているが本当のところは高所が好きなエリオットが楽しんでいる横でガタガタ震えてシラケさせるのが嫌だったというのもあった。

しかし一人でバードビューに挑んだ結果、悠斗は東京上空でパニックを起こしてしまう。

まだ飛行機などの場合は最悪座席なり、手すりなり、手でつかまることにより多少の安心感を得ることができるが、VRでの飛行の場合、何かつかまるものがあるわけでもないのでパニックはさらにひどくなってしまった。

心拍数が上がり脳波の乱れが最高潮に達した時に、アクシデントが起こる。
VRマシンの強制終了である。

激しい閃光が悠斗の視覚に襲い掛かり、悠斗の脳は外界の情報を拒絶してしまった。

しかし、エリオットを楽しませるのだという使命感から、そのアクシデント以来、悠斗はこの恐怖体験のループの中に閉じ込められてしまっていた。

ドリームキャッチャーで悠斗の「夢」にダイブしたエリスは、介入するポイントを探すためにまずは一旦悠斗の悪夢を一通り見て、そして泣いた。

[[私を楽しませようと頑張ってしまったために、苦しむことになるなんて…!
はやく、このループを止めてあげなきゃ…。]]

夢への介入

悠斗の夢は一部混乱していて、前日の下見だったはずがエリオットと会う当日ということに変化していた。

新宿駅に他人が登場しないのは悠斗が人込みを「自分たちに関係ないもの」として記憶しているためなのだが、悠斗はそれがVRの新宿駅だからだと解釈していた。

また、来日前のメッセンジャーでの会話もVRでの観光という形になり、新宿駅以降の一連の流れにはEIOの「エリオット」が登場していた。

エリスはその「エリオット」にすり替わる形で介入する事にした。

「ユート」
「え??エリオット?!」
「そうだヨwやだナーだからビックリするなっていったじゃなイw」

こうしてエリスは『女の子のアバターになった』エリオットとして悠斗の夢に登場し、ループの終了点であるバードビューまで進む。

「バードビューをしない」という選択肢も取れなくもないが、悠斗に達成感を与え満足させることでループを断ち切り、覚醒に導くというプランを立てていたのだ。

「そういえばユートは高いとこ苦手だったよネ?大丈夫?」
「…だ、だいじょうぶ、だし…」
「顔色悪いヨwなんなら手をつないでて上げようカ?」

[[無理しちゃってるな…。でも男の子ってこういうところプライド高いから、素直に手をつないではくれないよね。誰かと手をつなぐだけでも安心感ってあるんだけど。]]

エリスは気のいい『親友』として、極端に近づき過ぎず、かといって突き放さない微妙な距離感を探りながら行動していた。

失敗すればまたループのやり直しになってしまうが、何度も繰り返していくうちに悠斗の心が壊れてしまわないか、それがエリスは気がかりだった。

「ではこれから10分間の空中散歩です。VRなので危険はございません。リラックスしてお楽しみください。」

このNPCのセリフは実際のイベントでも言われていたのだろう。

確かにVRは安全性は高いのだが、リアルと錯覚しやすい分、こういう恐怖症も発生させやすいという観点もあるのだ。

東京上空に上がるエリスと悠斗を含む数名の参加者たち。

この参加者たちが登場するのは、悠斗がパニックになったときに心配して関わってきたか、または笑ったか、そういう形で記憶されている人たちなのだろう。

高度が上がり、都庁舎ヘリポートを超えたあたりで悠斗はパニックを引き起こしていた。これは前回のループでも確認していたので、終了ポイントは間近である。

ここでエリスは悠斗に接近し、肉体的接触をして、安心感を与えることを試行することにした。いきなり抱き着くというのはエリス自身も恥ずかしかったので、もちろん手をつなぐという行為だが。

「アハッやっぱり震えてるジャン。無理しないで良かったのニ。」

「かわいらしいカップルねw」
「若いって良いなあ」

近くにいた他の参加者がからかい始めた。

このセリフは実際には出ていなかったはずである。
エリスの存在により悠斗の解釈が変わり、エリスが居た場合はこういうことを言ったのではないか、という推測に基づくものであろう。

恥ずかしがっていた悠斗だが、恐怖を薄れさせることはうまく行ったようで悠斗の体の震えはだいぶ少なくなっていった。

ただ、その代わりかなり強く握ってきたので痛みを感じるレベルであったが。

[[神経パルスジェネレーターはうまく機能しているな~]]

こういう状況でも機能面について感心してしまうあたりはエリスの研究者としてのサガであろうか。

ともかく、ループの終了点、ゲームでいえばバッドエンドにあたるフラグは回避し、バードビューは終了シーケンスに入ったようで、下降が始まった。

「ユートなんのかんの言ってしっかり握ってたネwちょっと痛かったヨw」
「どうせ僕はビビリだよ」
「うん、知ってタ。でもアリガトウ。楽しかったヨ」

エリスは満面の笑顔を悠斗に向けた。悠斗もその笑顔を見て満足した雰囲気である。
これで達成感は与えられたので、悪夢は終了できるはずだった。

しかし…

エリスのトラウマ

この時、悠斗は自分のトラウマが多少といえど緩和されたことから、あることを連想してしまった。

そう、エリオットのトラウマ、ホラーが苦手ということを。

「なにコレ、これもアトラクションなのかナ…?」

着地した状態の新宿はいろいろなものが崩壊していた。
明らかに想定外の事が起きていることを感じながらもエリスは演技を続けていた。

[[ループ抜けたハズなのに!しかもこれってホラーっぽい??
ひょっとして、ユート、私がホラー苦手ってことを考えちゃったの??]]

「都庁は結構無事っぽいから、中を調べてみようか」
「いや、ちょっと中に入るって鉄板バッドエンドじゃなイ?」

頭の良い子は割と怖いものが無いように思われるが、いろいろ推測できてしまう分臆病な子もいる。

エリスも基本的に臆病なので、普段から自分にとっての危険要因が起こらないように予測行動をしているタイプである。

そのため想定外の事には弱く、演技も限界を迎えようとしていた。

「でもシステムコールしてもダメだし、それが嫌ならログアウトする?」

悠斗の夢である以上システムコールやログアウトなどをすることはできない。

必要なのはこれが「悠斗の夢」だということを悠斗自身が気づかなければならないのだが、悠斗はまだこれがVR世界だと思い込んでいるのだ。

「そ、それはイヤ。せっかくユートとデ…遊べるのに」

[[夢だと言ってもまだ信じてくれないよね。どうしよう。]]

「ともかく、調べてみよう」
「ウ…ウン」

都庁観光案内コーナーでPCを起動し、情報を検索する悠斗とエリス。

「なんだか、ゾンビ系ホラーみたいな内容…」
「そんな感じだな。アトラクションが切り替わったのかな…」
「ホラーアトラクションなら、お断りしたいんですケド…」

悠斗が連想していたのは「サイバーテロ」というキーワードから、どちらかといえばゾンビ系ホラーというよりは、サイバーホラーといったジャンルに近いだろう。

エリスにとっては怖いものである以上どちらでもあまり喜ばしくはないだろうが、サイバーであるならば科学者であるエリスは対応が可能かもしれない。

しかし、エリスは恐怖心からあまり良く見ていなかった。

ガタッ
その時、通路の方で何か音がした。

「ヒッ」

エリスは音に反応して飛び上がってしまう。

「誰かいるのかな、ちょっと見に行こう」
「ダ、ダメだヨ!それもバッドエンド鉄板行為だヨ」
「でもこのままだと何も判らないし行ってみようよ」

「ア、アノ、腰がぬけちゃっテ」
「わかった、じゃあ僕が見に行ってくるよ」
「す、すぐ戻ってきてネ、何かあったらすぐ逃げてネ」

悠斗が通路の先に進むと、そこに女性の後姿を見つけた。
制服を着ているところからおそらく都庁の職員という役割であろう。

声をかけても反応を示さない職員に業を煮やした悠斗は肩に手をかけ振り向かせる。
しかし、その女性職員の顔は半分崩壊していた。

顔の崩壊した半分は機械が露出していた。
女性型アンドロイド=ガイノイドと呼ばれるタイプのロボットなのだろう。

人間はオカルト的なモノのみに恐怖を感じるわけではない。
このような「制御を離れた機械」というモノにも恐怖を覚えるのだ。

「機械」というものは人間の労力を減らしたり、人間が持ち得ない力を発揮するために作られた道具だ。
しかし「人間を超えた力」を持つ機械が人間の制御を離れ、暴走したらどうなるだろうか?それは人間にとっては「モンスター」に他ならない。

「うわあ!」

「ユート?!大丈夫?!」

悲鳴を上げた悠斗のもとに心配してふらつきながら近寄ってきたエリスの姿が見える。
この状況でも「頼れる兄貴」でありたい悠斗は、

「だ、だいじょうぶだから、待ってて!」

と強がってしまう。

そうは言われても心配をして近づいてしまうエリスが見たのは、半壊したガイノイドに壁に投げつけられ気を失っていく悠斗の姿だった。

「ユート!しっかりしテ!ユート!」

呼びかけるが悠斗からの返事はない。完全に気を失ってしまったようだ。

そして…世界はブラックアウトする。







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