この物語はフィクションです。劇中に登場する人物・名称・技術・解釈などはすべて架空のものです。また、実際に存在する地名・建築物などを使用しておりますが、実在のものとは一切関係はありません。
VRトーキョー
とうとう念願のVRマシンを買った。さっそく前々からVRマシンに興味があること、資金が貯まったら購入を考えていることを話していたアメリカのネットフレンドのエリオットに連絡する。
彼は以前から日本に行きたいと言っていたので俺は"VRトーキョー"に誘ってみた。
「それはいいネ!ぜひ行こウ!」
とすごく喜んでいる雰囲気のメッセージが帰ってきた。
「あ、新しいアバターで行くのでボクを見てビックリしないでネ」
いつもゴツイアバターを使うエリオットがビックリするな、と前振りしてくるということは相当なんだろうか。
エリオットは結構長い付き合いだ。
FPSで初めてオンラインゲームをしたものの何をしたらいいかわからず、一方的にやられていたのを見つけ俺が彼にあれこれ指導したのが始まりだったりする。
ゴツイ外見のわりに臆病。
それが俺のエリオットについての印象だ。
そこからFPSだけではなく、オンラインRPGのEIOに誘い、どちらかというと銃弾が飛び交うFPSよりもエリオットはファンタジー系の方が向いていたらしく、どんどんEIOに比重を移していき、今では精霊術師として結構有名なプレイヤーにもなっている。
上手いということで有名というより、ハイリスクハイリターンの魔導士として有名だったりするのだが。
でも、人懐っこくていい奴で、なんというか一人っ子の俺としては親友でもあるのだけど弟分にも感じる。
だから、今回のVR体験も、アイツに良いとこ見せてやらないとね。
もちろんエリオットにも体験は楽しんでほしいけどさ。
俺はVRマシンを装着して、ログインをする。
いつもあまり極端にリアルと違う姿にするのが嫌で、今回も割と普段の俺の姿と似たアバターにしてある。
待ち合わせはVRの新宿駅だ。
キミは誰?
VRの新宿駅は非常にリアルにできていた。非現実的なのは自分以外人が全くいないところだろうか。
「ユート」
と声がかかる。
エリオットが来たようだ。が、あれ?女の子の声?
振り向くと、そこにはいつも見上げているゴツイエリオットではなく、俺より背が低い金髪のショートカットの女の子がいた。
「え??エリオット?!」
「そうだヨwやだナーだからビックリするなっていったじゃなイw」
いや、ビックリするよ!ゴツイの想像してたらこんなカワイイ…
「ん?カワイイ?wユートの好みの外見カナ?カナ?w」
あれ?声に出てた??俺の反応を見たエリオットはなぜかガッツポーズをしていた。
確かにどストライクなわけですが…。
「と、とにかく、なんで唐突に女子アバターなんだよ」
「んー気分転換wVRとはいえトーキョー観光するわけだし男2人てのもムサいでショw」
まあ、そうだけどさ、中身男だと判っててもちょっとドキドキするよ…
「ま、彼女いないユートには刺激が強かったカナw」
ば、馬鹿にするな!事実だけど…。
「そうそうバードビューっていうアトラクションがあるそうだヨ。ボクそれをやってみたいナ」
エリオットは微妙な空気を打ち破るようにこれからの行動を提案してきた。
「バードビューっていうことは鳥瞰視点ってことか、まあいいかな」
とこの提案に乗ることにした。
"バードビューアトラクション"の集合場所は新宿都庁前の広場だった。
ガイドNPCのアナウンスによると、10分程度待つことになるようだ。
「そういえばユートは高いとこ苦手だったよネ?大丈夫?」
「…だ、だいじょうぶ、だし…」
「顔色悪いヨwなんなら手をつないでて上げようカ?」
とウインクしてくる。ちくしょうカワイイじゃねえか…。
美少女(中身男)に振り回されながら待っていると、まばらに人が集まってきていた。
他にもアトラクション参加者がいたようだ。
「ではこれから10分間の空中散歩です。VRなので危険はございません。リラックスしてお楽しみください。」
NPCがそのようにアナウンスすると、視界の右側にゲージのようなものが現れる。
高度計だろうか。ゲージの下から帯が持ち上がってくると同時に自分の体が浮かびあがってきた。
視点はどんどん高くなっていき、都庁のヘリポートが足元に見えるようになる。景色は壮観なのだが…その…、むっちゃ怖い…。
「アハッやっぱり震えてるジャン。無理しないで良かったのニ。」
とするりとエリオットが俺の手を握ってきた。
やわらかくて暖かかった。
?うちのVRマシンに触覚や温度を感じる機能なんてあったっけ?
高所への恐怖と手の感触の心地よさに思考の全てを奪われ、その疑問はかき消されてしまった。
「かわいらしいカップルねw」
「若いって良いなあ」
一緒に参加した他の人達からからかわれてしまった。
ホントはコイツ、男なんですよ!と反論したかったのだけど、俺にそれだけの余裕があるわけも無い。
エリオットはバードビューを楽しんでいたようだが、俺は生きた心地がしなくてほとんど景色を見る余裕がないままアトラクションは終了時間となった。
ゲージの帯は先ほどとは逆に下がっていき、それに伴い視点も下がっていく。
「ユートなんのかんの言ってしっかり握ってたネwちょっと痛かったヨw」
「どうせ俺はビビリだよ」
「うん、知ってタ。でもアリガトウ。楽しかったヨ」
とニッコリ微笑むエリオット。まあ、楽しんでもらえたなら良かったかな。
高度が下がって来て俺は違和感を感じた。
降り立った新宿の風景は、崩壊していたのだ。俺たちと一緒にバードビューに参加した人たちもいない。
変容する世界
「なにコレ、これもアトラクションなのかナ…?」今度はエリオットの顔が真っ青になっている。
彼は高所は全然平気だが、ホラー系が超苦手なのだ。
前にジャパニーズ・ホラーを紹介したら怖すぎて失神したとかしないとか。
徐々に俺にすり寄ってきてついには腕に抱きついてしまった。
今度は腕に2つのやわらかい感触を感じ、良い匂いがする。
健康な男子としては非常にうれしい展開ではあるのだが、コイツは男…
ちがう問題はそこじゃない。
感触?匂い?体温?
おかしい。
まだ現状のVRはそこまで再現できないはずだ。
なのになぜそれらを感じるんだ?この崩壊している新宿は一体??
大きな疑問を持ちつつ、システムコールしてもなにも応答が無い。
仕方がないので比較的に崩壊していない都庁舎で何が起こっているのか調べるようと中に入ることにした。
「いや、ちょっと中に入るって鉄板バッドエンドじゃなイ?」
と半泣きになっているエリオット。
「でもシステムコールしてもダメだし、それが嫌ならログアウトする?」
「そ、それはイヤ。せっかくユートとデ…遊べるのに」
ん?なんか言い直した?
「ともかく、調べてみよう」
「ウ…ウン」
都庁の中に入ると、よくある観光パンフレットなどが散乱してはいるが、思ったよりも内部は崩壊してはいなかった。
しかし、照明は点灯しておらず、点け方もわからなかった。
薄暗い中、観光案内コーナーに行ってみることにした。
PCがいくつか並んでいるが、その中であまり壊れて無さそうなものが一つあったので、電源を入れてみる。
VRの中でPCを起動するというのも変な感じだが、手がかりも無いのでその辺は一旦どこかに置いておくことにしよう。
起動できたのでインターネットを見ることにする。
まずはネットニュースで情報を収集してみよう。
"2030年のサイバーテロによる死傷者の数は…"
"ウイルス感染数増加、アンチウイルスも効果を見せず"
"感染●を見かけたらすぐ避難し、最寄りの警察署に連絡を"
といった穏やかでない内容のニュースばかりだ。
「なんだか、ゾンビ系ホラーみたいな内容…」
エリオットがポツリとつぶやく。
「そんな感じだな。アトラクションが切り替わったのかな…」
「ホラーアトラクションなら、お断りしたいんですケド…」
エリオットの顔がさらに青くなっている。
これがFPSやRPGなら、彼は強力な兵器や魔法を駆使して恐怖を攻撃力に変えてしまうのだが、ここでは不可能だった。
ガタッ
その時、通路の方で何か音がした。
「ヒッ」
エリオットが音に反応して飛び上がる。
「誰かいるのかな、ちょっと見に行こう」
「ダ、ダメだヨ!それもバッドエンド鉄板行為だヨ」
ホラー嫌いな割に良くそういう鉄板を知ってるな…と思いつつも、
「でもこのままだと何も判らないし行ってみようよ」
「ア、アノ、腰がぬけちゃっテ」
恥ずかしいのか顔が青から赤に変わっていた。
「わかった、じゃあ俺が見に行ってくるよ」
「す、すぐ戻ってきてネ、何かあったらすぐ逃げてネ」
「わかったわかった」
バードビューとはうって変わって弱気なエリオットをソファーまで誘導し、俺は音のした方向に行ってみることにした。
通路の先には女性がいた。
制服を着ているところからおそらく都庁の職員に見立てたNPCか、もしくはそういう役割の人だろう。
「あのーすいません!」
近づきながら声をかけるが反応がないので、もう少し近づくことにする。
「あの!」
あまりにも反応が無いので肩に手を置いて振り見かせてみると…
その"女性"は半分顔が無かった。
正確に言うと顔半分が崩壊していて、内部の機械が見えていたのだ。
「ア゛ヴァー、オ、お客サマ、ドウイッタご要件ガガガ…」
ノイズ混じりの声と、半壊した顔の恐ろしさに、
「うわあ!」
と声を上げてしまった。
すぐにその場から離れたかったが、その"女性"はガッチリ俺の腕を掴んでいた。
「ユート?!大丈夫?!」
心配したエリオットが声をかけてくる。
でも、エリオットをこちらに来させるわけにはいかない。
「だ、だいじょうぶだから、待ってて!」
エリオットは見かけだけとはいえ女の子。
危ない目に合わせたくはないし、あまりかっこ悪いところも見せたくなかった。
「オ゛加減がワルイ゛ようですので、医務シツに、ゴ案内イタシマス…」
と、そのまま俺を投げ飛ばしてしまった。
壁に強かに頭を打ち付けられてしまい、意識が遠のいていく。
遠いところから、エリオットが俺の名を呼んでいる気がする。
エリオットが本当に女の子であんな彼女がいてくれたらなあ、と思いながら俺の意識は闇に閉ざされた。
VRか現実か?
-違う。意識が闇に閉ざされたのではない。覚醒したのだ。
すっかりあれがVRだということを忘れていた。
俺はベッドから落ちていて、その際、VRマシンの接続も切れていたようだ。
「VRってすごいな。途中からよくわからなくなってたわ」
そうつぶやきつつVRヘッドギアを外してみると、
おかしな事に気づく。
俺は自分の部屋でVRを始めたはずだ。
なのに、いまここにいる場所は…。
なんと言えばいいのだろうか、そう"病室"という感じが近いだろう。
ふと気づくと"病室"にはもう一つベッドがあった。
そちらを見るとVRヘッドギアを被った女性が寝かされていた。
「ユート!どこ?!大丈夫なの??」
"彼女"は俺の名前を呼んでいる?まさか??
俺は彼女のVRヘッドギアの接続を解除し、ギアを外してみるとその顔は…。
VRの中で会ったエリオットのアバターにそっくりだった。
俺に気づいた"彼女"は目を開け俺だと確認するといきなり抱きついて来た。
「良かった!!ユート無事だったのね!!」
VRで感じた匂いとまったく同じ"彼女"の匂いに戸惑いながらも、
「ちょ、ちょっと待って、君は一体…」
と問いかけると、
「私がエリオット。今まで黙ってたけど本当はエリスというの…」
え?あのゴツイエリオットじゃなくて、これが本当に中の人?
エリオットじゃなくてエリスが女の子だった!と喜びたいところだが、そんな場合じゃない。
そもそもエリスはアメリカに居るはずだ。
なぜここに?そのような疑問が頭をぐるぐるしていると、
壁面にプロジェクターらしきもので投影された映像が浮かび上がる。
そこにはバードビューのガイドNPCが映っていた。
「あなた方は東京で起きたサイバーテロの生存者です」
「現在東京はウイルス感染によって暴走したアンドロイドによって占拠されており、外部からの救出が難しい状態です。」
ガイドNPCは無表情にそうアナウンスしていた。
冒頭をちょっと湯んだだけだけ。
返信削除絵が上手だけど漫画にしないの?
コメントありがとうございます。
削除うーん、マンガはちょっと時間的にも気力的にも厳しいかなーという感じです。
それをやり始めちゃうとブログ運営の時間がなくなっちゃうので。
文章書くのはそれなりに早くなってきていて、たとえばこの記事1ページ分ならプロットができていれば半日かからないと思いますが、マンガだったら数週間かかるんじゃないかなーと思います。
あと、この小説のシリーズは二章までは子どもが描いてるんで、画風の調整も必要ですねw