印刷の歴史と技術を学ぶー凸版印刷・印刷博物館

印刷の歴史と技術を学ぶー凸版印刷・印刷博物館

印刷の歴史は「人類の情報の記録と伝達の歴史」

壁に絵や文字を刻めば少数に伝わり、
版画で絵や文字を刷ればやや多数に伝わり、
印刷技術で絵や文字を刷れば大多数に伝わる。

そこからテレビやWebページなど、現代はさらに大多数に情報が伝わるようになった。

けれども、テレビもWebも「文字」をあつかうメディアである以上、印刷の中で生まれた文字の使い方は多いに影響していると言えるだろう。

唐突に先輩のポエム(?)で始まりましたネ。

ポエムじゃねーよ!!
印刷博物館に行っていろいろ感動した想いを言葉にしただけだよ!

先日、当ブログオーナーのセッジは、凸版印刷株式会社が運営する
印刷博物館に行ってきました。

印刷博物館は、印刷が存在しなかった古の時代から、現代の最新の印刷技術までを知ることができる印刷に特化した博物館です。

また、現在は使用頻度が減り、特別な印刷でしか見かけるコトがなくなった「活版印刷」についても知ることができます。

ここはグラフィックデザイナーや印刷事業者など、視覚情報表現者にとってとても貴重な資料が閲覧できる博物館なのです。

ということで、おはようございます!
デザイン講師ブロガーのセッジです❗
今回は凸版さんの印刷博物館のレポートになります❗
博物館から帰ってきた当日の先輩は、誰かに話したくてたまらないくらい興奮してました!

印刷博物館とは?

印刷博物館は日本の二大印刷会社の1つ、凸版印刷株式会社創立100周年記念事業の1つとして建設された「トッパン小石川本社ビル」に内にある印刷に特化した博物館です。

印刷文化に関係した資料の収集や保存と研究活動を主体としています。

また、現在では特別な印刷でのみ使用される活版印刷などの印刷を実体験するなど、実践・啓蒙活動を行っている施設となっています。

ここ数年の流行り病の影響で「ふらっと立ち寄って閲覧する」コトはできなくなっており、2022年6月現在は入場には事前の予約が必要になっています。

私はせっかくなので実践体験の「工房見学ツアー」の予約もさせて貰いました。
※工房見学ツアーは毎週火・水曜日の14時~になっています。

残念ながら、常設展示については撮影が許可されていませんでしたので、博物館内部についてはご紹介するコトができませんが…、

特にエントランスのグーテンベルグ印刷機のレプリカや、印刷の歴史に関わるアイテムを壁面に装飾したプロローグなどは圧巻でした。

ぜひ、直接あなたご自身の目でご覧ください。 

当日は午前中の仕事が終わり時間が余ってしまったので、トッパン小石川ビル内にある社員食堂を兼ねたレストラン「小石川テラス」で昼食をとって時間を調整するコトにしました。

あいにくこの日は雨でしたが、とても景観の良いレストランでした。

小石川テラス

小石川テラスのランチ

いざ印刷工房へ!

昼食をとって少しお茶を飲んで過ごしていたところ、13時を過ぎたので予約時間まで企画展と常設展を見ておこうと思ったのですが、ちょっと甘かったです。

情報量が多すぎて全て見きれないうちに予約時間が来てしまいました。

工房内部と、工房の展示については写真撮影、ブログでの公開可能という承諾をいただきましたので、ここからは写真つきでご紹介します。

まずは工房全体ですが、左手の赤い機械が卓上活版印刷機で、印刷体験時に参加者が実際に使用します。

工房見学ツアーでは自分で版を起こすことはできませんが、少しだけ活版印刷の体験もさせてもらえます。

右手には活字の製造に関わる機械と、近代以降の活版印刷機が並びます。
こちらは展示のみで実際の稼働はさせていないようです。

印刷工房全景

これがホントの「活字」だ!

よく「活字ばなれ」という言葉を目に(耳に)しますよね。
でも「活字」って何なのかしらない人が多くなっているのでは無いでしょうか?

使われている言葉の意味でいえば「文字ばなれ」が正確なように感じます。

活字とは狭い意味では「活版印刷に使う凸型の字形」のコトを言います。
要するに、木材・金属・樹脂を使ったハンコです。

ただし、単純なハンコではなく、一つ一つが全て違う文字になっていて、これを組み合わせて文章を組み上げていきますので、膨大な数を消費します。

写真は活字棚です。
8ポイントの活字が並べられていて、ここから文字を選ぶ職人=文選職人が原稿を見ながら活字を選んでいきます。

ちなみに1ポイントは約0.35mm
8ポイントX0.35=2.8mmですので、相当小さいコトがわかります。

解説員さんによれば
「熟練の職人は必要な文字を認識して活字を取り出し文選箱に入れるまでおよそ3秒」
とのコトで、凄まじいスピードで文章を組み上げていったそうです。

印刷工房の活字棚

活字時代のレイアウト「植字」

文選が終わったつぎの作業が「植字」となります。
要するに、現在で言うところの文字組みやレイアウトです。

同じレイアウトと言っても、IllustratorやInDesignなどで行う作業がむちゃくちゃ簡単に思えるほどの高難易度のレイアウトになります。

なにしろ活字は「無数のハンコ」なわけですから、文字は反転しています。
この反転した状態で文章に間違いがないか確認しながらの作業になりますので…想像しただけでも難易度高いですよね…!

そして写真を見てわかるように「余白」がありますが、この余白も何も置かないわけにはいきません。

なぜならば、何も置かないということはその分穴ができてしまい、揃えた要素が崩れてしまうからです。

そのために行間になるインテル、空白のクワタ、といった金属板を埋めて調整するとのコトです。

印刷工房の植字台

活字の製造:彫刻機

活字は文章を構成するために大量に必要ですし、印刷をするごとに消耗していき、いずれ使えなくなるので、常に製造して新しい活字を補充していく必要があります。

基本的には文字の型に溶かした金属を流し込んで製造するのですが、その型も作る必要があります。

このために使用する機械が「父型・母型彫刻機」です。

下にあるレタリングされた文字の原図からパタン(原型)を作り、機械下部の棒の部分でパタンをなぞることで、上部で母型が彫刻される仕組みになっています。

父型・母型彫刻機

活字の製造・鋳造機

彫刻機で母型ができたら、それに溶かした鉛合金を流し込み、金属活字を製造します。
そのための機械が「活字鋳造機」です。

360度で溶かして液状になった鉛合金は、型に流し込まれて水で冷却して固まり活字になります。

印刷博物館で保存されている鋳造機は手回し式だそうで、液化→固形化した活字を手回しハンドルで順次送り出していって連続的に製造していきます。

活字鋳造機

活版印刷機

15世紀のヨハネス・グーテンベルグはぶどうしぼり機をヒントに、活版印刷機を発明したと言われています。

グーテンベルグが制作した最初の印刷機は木製でしたが、後年の18世紀にその仕組みを元に作られたのが全て鉄でできている、スタンホープ印刷機です。

総鉄製の利点は、型さえあれば量産できるコトと、印刷時の圧力を強く均等にかけられるコトだそうです。

このタイプの印刷機は、さらに時代が進んで19世紀に蒸気機関を利用した輪転印刷機が誕生するまで多用されていたと言われています。

スタンホープ印刷機

活版印刷体験

工房見学ツアーは、卓上活版印刷機で実際に印刷を体験して締めくくりになります。

もう一つのワークショップである「活版印刷体験」の場合は、参加者自身が文選して版をレイアウトしたものを印刷するそうです。

工房見学の場合はあらかじめ組んである版をつかっての体験になります。
活字の歴史や知識を学びたいなら「工房見学ツアー」
実際に文選して植字して印刷してみたいなら「活版印刷体験」
という選択ですね。

さて、活版印刷の工程は以下のようになります。

  1. 印刷機に版をセットし、用紙をセット
  2. レバーを操作してローラーにインクをなじませる
  3. ローラーから版にインクを移す
  4. 最後に圧力を加えて印刷

という流れになります。

グーテンベルグの考案した活版印刷機とほぼ同じ仕組みで、1人の作業者がレバーを上下させるだけで印刷できるようになっています。

活版印刷機に版をセット

活版印刷機に用紙をセット

活版印刷機のレバーを引ききって印刷

人気のフォントのルーツとは?

セッジがデザイナーとして社会人デビューした頃は、写植(写真植字)が全盛だった頃です。
その時私が受けていたレイアウト&写植指定の授業の担当の先生は、どちらかというと活字が専門の方でした。

今にして思えばとても貴重な体験だったと思うのですが、その先生の独特の指導の仕方に私がなじめず、その先生が苦手になり…。

それに引きずられてその授業自体が身に入らなくなってしまっていました。
ただ、その時目にしたり耳にしたり触ったりした「活字」のコトは記憶の片隅に残っていて、それがこうして印刷博物館での体験につながってきています。

例えば凸版印刷でいえば凸版文久体DNP(大日本印刷)でいえば秀英体というフォントがあります。
これらは、Adobe社のフォントサービス「Adobe Fonts」にも収録されています。

また、モリサワの中で言えばA1明朝、A1ゴシックといった「あたたかみやにじみ感」のあるフォントが人気です。

凸版文久フォント

これらのフォントは「活字をルーツとするフォント」です。

活字だからこそ持つあたたかみや、墨だまりがおこるコトによるにじみ感。
こういった表現を再現したフォントなのです。

印刷の歴史と技術を学ぶ

現在では「デザイナー志望」の多くが「Webデザイナー志望」だったりします。

それにともない、印刷の仕組みがわからないデザイナーが増えてきているともいわれています。

しかし、レイアウトや文字はWebデザインでも重要なモノですし、そのルーツは印刷や出版にあるともいえます。

とくに「グーテンベルグ」という名前は、Webが主流になりつつある現在でも関係しています。

なぜならば、レイアウトする時、とても大事なのが「視線誘導」
これらは「グーテンベルグ・ダイアグラム」から生まれたモノなのです。

そして常設展示になるので写真でご紹介できないのが残念ですが、
これも理解しにくいといわれる、
「なぜCMYKの4色でフルカラーの写真やイラストなどが表現できるのか?」
その原理を知るコトができる施設でもあります。

印刷博物館に行くことをTwitterでつぶやいた時、
フォロワーさんから「おみやげにフォントかるたをどうぞ!」という声がかかりました。

じつは「フォントかるた」は2020年の4月10日の「フォントの日」のイベントの抽選に当たり、基本パックと2020年の拡張パックはいただいていました。

今回は2021年の拡張パックと、ちょっとおしゃれで惹かれたので封緘印(手紙の〆マークよりフォーマルな封印)を購入しました。

印刷博物館みやげ

印刷の歴史は「人類の情報の記録と伝達の歴史」です。

人間が進化していった先、あるいはさらなる技術革新が進んだら、新たな情報伝達の手段が生まれるかもしれません。

しかし、現状は視覚や聴覚、触覚など感覚器に頼った情報伝達方法は長く続くでしょう。

それはこの先、WebやVRなどメタバースが進歩しても変わらないと考えています。

「印刷物は時代遅れ」
そのように考える人もいると思います。

しかし規模はともかく「印刷物=紙媒体は無くならない」と断言します。

なぜならば印刷物は印刷し終わるまではエネルギーを消費しますが、一旦印刷されればその後は「エネルギーを消費せず見ることができるメディア」だからです。

テレビにしろWebにしろ、VRにしろ、全て電気という「エネルギーが止まってしまったら見れなくなってしまうメディア」です。

昨今の状況からエネルギーについても一本化するコトのリスクが出てきています。
「情報伝達手段」についても一本化せず、多方面から見ていく必要がでてきているのでは無いでしょうか?

そういった意味でも「印刷博物館」に足を運んでみてはいかがでしょう。

熱いっそして、重いっ!
なんかまたエネルギー量が高い記事になりましたネ!
それだけ、印刷博物館が知的好奇心と自分の中のノスタルジー?を刺激されたんだと思うんだよね。
いやなんか、私もむっちゃ印刷博物館行ってみたくなりました!
もうしばらくしたらボクもまた行くよ!
工房見学の時間が気になって、常設展のほう、じっくり見れなかったからね!
ということで、今回はセッジ先輩の「印刷博物館レポート」でした。
視覚表現をしている方は超オススメです!
最後までご覧いただきありがとうございました!
ぜひみなさんも印刷博物館に行ってみて下さい!

凸版印刷株式会社 印刷博物館

  • 所在地:東京都文京区水道1丁目3−3 トッパン小石川ビル
  • 入場料:一般400円/学生200円/高校生100円/中学生以下および70歳以上は無料
  • 休館日:毎週月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)/年末年始/展示替え期間

※2022年6月現在は入場予約が必要です。

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